久しぶりに触れた蕾の唇は、その感触も香りも、東雲の記憶の中よりもずっと確かだった。
そのことを確かめるように、東雲は何度も何度も飽かずにキスを落としていく。
次第に深まる接吻けの熱に浮かされるように、じわじわと頭の中が侵食され何も考えられなくなる。天界のことも地上のことも、蕾の子作りも自分の修業も、今、ここに存在する蕾以外の全ての物事が色褪せ、どうでもよくなってしまう。
目を閉じて接吻けに応えてくれている蕾が、愛しくて。
東雲は慈しむように微笑むと、蕾のTシャツにそっと手をかけた。
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「…っ…ア…………しッ…、の…め………ッ」
敏感な部分を口に含まれ、舌と唇で容赦なく追い詰められていく。
頭の芯が痺れるような未知の快感の波に攫われながら、蕾は堪らなくなって名を呼んだ。
その声に煽られるように東雲はさらに深く咥えて促してやるのだが、蕾は背をしならせて身を捩り、頑ななまでに堪えている。すでに限界に近いだろうに、両手で東雲の頭を掴んで引き剥がそうと必死だ。
そのあまりに強い力に東雲は仕方なく愛撫を中断し顔を上げると、きつく寄せた蕾の眉根にそっと口付けた。
「蕾……蕾、……大丈夫だから、我慢しないで」
うっすらと目を開けた蕾の視界に、東雲の顔が映る。微笑んではいるのだが、いつものような余裕がなくどこか切羽詰まったような目をしている。
だが、今の蕾は、東雲の微妙な表情を気にするどころではなかった。
(な…何が大丈夫だっ。 我慢するなもなにも、おまえのせいだろうが!)
巧みな愛撫に翻弄されてまともな思考さえ覚束ないとはいえ、東雲の口の中に出すなどとんでもない。そんな恥ずかしいことができるわけないではないか。
蕾の視線からそんな無言の断固たる抗議を感じ取り、東雲は内心で苦笑する。
蕾らしいといえばらしいのだが、いまだにこうまで恥ずかしがられるといささか物足りない気がしてしまう。
しかし、ここで拒まれてしまっては元も子もないので、無理強いはせずゆっくりと慣れていってもらうしかないだろう。数少ないチャンスの中、少しずつ少しずつ色々試して、ようやくここまでできるようになってきたのだから。
東雲は口淫を諦め、蕾の瞼や頬に宥めるように優しいキスの雨を降らせながら、張り詰めている部分を手で何度か擦ってやった。
「…………―――――ッ!」
ほどなく、蕾は声にならない声と共に、東雲の掌に熱い迸りを吐き出した。
息を弾ませながら蕾が瞑っていた目を開くと、東雲がさも愛おしそうに蕾の様子をじっと見つめていて、それがまた恥ずかしいやら悔しいやら。
腹立ち紛れに蕾は、東雲のいまだほとんど着崩れていないバスローブの襟を両手で掴んで、思い切りはだけさせた。
いきなり諸肌脱ぎにされ目を見開いている東雲を、上気した顔で睨みつけながら、
「………おまえも…、…脱げ」と、荒い息の下から絞り出すように言ってやる。
しかし東雲はそんな蕾の言葉に、場違いなほど嬉しそな笑顔を浮かべた。
「仰せのままに」
どんな些細なことだろうと情事に際して蕾の方からの働きかけがあること自体が、東雲にとっては喜ばしい。躊躇なく帯を解き全裸になった東雲は、改めて蕾をしっかりと腕に抱き込んだ。
肌に直に伝わる体温が心地良くて、蕾もようやく息をついて東雲を抱き返す。と、脚の辺りの常とは違う感触に気付き、遅まきながらようやく東雲の状態に思い至った。
硬くなっている部分に膝をグリグリと押しつけてやると、東雲がウッと呻いた。
「なんだ、おまえだって相当に我慢しているのではないか」
「……っ、この状況で、反応するなという方がおかしいだろ…う…ッん………つ…蕾、足でなんて……ダメだ…って」
「だったら手の方がいいか?」
そう言うや否や、蕾の手が伸びてきた。
「へっ? …!っうわ、ちょっ、待っ、そんな思いきり握った…ら…っア……やめ、な……さいっ…て、ば……ッ…」
「どうだ、少しはオレの気持ちがわかっ……ンンッ!?」
揶揄うような蕾の言葉に、これ以上主導権を握らせてはおけないと、東雲は自身を捉えていた蕾の手を両手で拘束し、自らの唇で無理矢理蕾の口を塞いだ。ジタバタと抗議する蕾を上からしっかりと押さえつけ、口内深くまで蹂躙してやる。
「……ン……ふ………」
たっぷりと時間をかけ蕾が大人しくなったところで東雲はようやく唇を離し、今度はその唇を、陶酔したように脱力している蕾の耳元へと寄せた。
わざと耳朶をくすぐるように、甘い声で囁く。
「せっかく久しぶりだから、君に最高に気持ち良くなってもらおうと頑張っているのに」
「…っ」
吹きかけられる吐息とその言葉で、蕾の背筋は電流が走ったように粟立ち、中心には再び熱が集まってくる。が、そこで簡単には陥落しない所はさすがの御大花将。
乱れる息を必死で押し殺しながら、東雲を睨みつけた。
「……なんでも、キサマの思い通りになると、思うなよ」
だが、そんな蕾の鋭い眼光をものともせず、東雲は不敵な笑みを返す。
「君が私の思い通りになったことなど一度としてないじゃないか。 まあもっとも、思い通りにならないからこそ、余計にそそられるんだけどね」
もはや何を言っても無駄のようだ。蕾は半ば呆れたようにフンと鼻を鳴らした。
「おまえもたいがいだな」
「お褒めにあずかり光栄だよ」
「褒めとらんわ」
「まあまあ。 ところでそろそろ再開したいんだけど?」
東雲は、互いに熱くなっている存在を再確認させるようにグイッと腰を押しつけた。
「…ッ………勝手にしろ」
それを合図に再び深く唇を重ね合い、互いに足を絡めて縺れるようにベッドへと沈んでいった。
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「……ック…う…」
指で丹念に解された狭い入口をさらに押し広げながら、少しずつ東雲が入ってくる。
樹仙の癒しの力のせいか東皇使の技巧のせいなのか、痛みや不快感を感じることはほとんどないとはいえ、この瞬間はいつまでたっても慣れることがない。
得体の知れない緊張感と、自分の身体が自分でコントロールできなくなるような恐怖感、そして、その後にくる昂揚感とそれを待ち焦がれる期待感。
様々な感覚が渦巻いて、気を抜くとすぐにでもあられもなく声を上げてしまいそうだ。
東雲がゆっくりと身体を進めていくにつれ、ひときわ甘い香りが立ち昇る。大輪の花群が一気に開いたような凄まじく濃密な花気が広がって、東雲をさらに奥へといざなっていく。
この香りこそ、蕾が東雲を受け入れて、確かに悦びを感じてくれていることの証だ。蕾からの言葉や態度がなくても東雲がわずかなりとも自信を持てるのは、これがあるおかげだと言ってもいい――いや、むしろそれを確かめたいがために彼を抱いているのかもしれない。
普段は、清冽で力強く他を寄せ付けないほどの圧倒的な鋭さを伴っている蕾の花気が、これほどまでの艶をまとい絡みつくように官能を刺激してくることを知っているのは、天地で唯一、東雲だけでいい。
一度でもそれを味わい囚われてしまったら、もはや抗えるわけがない。
香りに誘われ、蜜に酔わされ、二度と抜け出せなくなった昆虫のように、理性までをも溶かされて恍惚の中で極上の花へと堕ちていく。
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どちらのものか分からない荒い息遣いが、仄暗いホテルの一室に満ちる。
揺さぶられ、突き上げられ、受け止めて、達して、その繰り返しに何も考えられなくなっていく。
時間の感覚もなくなり、何度目かもわからなくなって、もうヤメロいい加減にしろと言おうとするのに、すぐにそれを凌駕する圧倒的な快感に呑み込まれ、制止の声がいつの間にか艶声に変わっている。
東雲が優しいなんて大ウソだ。
蕾が好きだ大切だと散々言っているクセに、意地が悪くて、しつこくて、蕾の意思などお構いなしではないか。
冷静沈着で穏やかな優等生という外面をかなぐり捨て、余裕もなく、情欲を隠すこともなく、ひたすらに蕾を求め。
とんだ二重人格だ。
だが……。
東雲の首にすがりつき、喰らいつくように足を絡めている自分も同類か。
東雲を逃がさない、簡単に満足なんてさせない、ずっとオレを追い求めていろと、心の奥底に隠されている本心がここぞとばかりに主張する。
そして、互いに衝動に流されるまま、いつ果てるともしれない交わりが続いた。