短夜花莟 おまけ





「もしもし」
「お、東雲? オレオレ。 なあ、蕾そっちに行ってねぇ? 起きたらいねーんだけどよ。 薫さんも知らないっつってたし」
「ああ、さっきまでウチにいたよ。 もう、マンションに着く頃だと思うけど」
「なんだよ〜、ならよかったけどさ。 またなんか事件でもあったのか?」
「いや、私の様子がおかしいと君が言ってたから見にきたそうだよ。 心配かけて悪かったね」
 やっぱ東雲のトコに行ったのか。素直じゃねーなぁ、まったく。
 でもそれって、薫さんより早起きしたってことか? いや、ありえねーだろ…ってことは、え、もしかして昨日の夜から今まで?
 そういやなんか、東雲の声が妙に機嫌よさそうだな……ちょっとカマかけてみるか。
「ふーん……で、蕾となんかあった?」
「なんかって何だね。 別に何もないよ」
 よく言うよ、明らかに昨日までと声が違うじゃねーか。電話の向こうでにっこり笑ってんのが想像できるっつーの。
 まあ、コイツはこの程度じゃ崩れないから、あとで蕾の方もつっついてみよう。おもしれーことになるかもな。
 そうだ、それより東雲が復活したんなら、もっと大事な事があるじゃないか。
「そうそう、おまえ今度の土曜、空いてるか? プール行こうぜ」
「土曜日かい? ああ、大丈夫だよ、空けておくから」
 おおおっ!? いつもなら宿題は終わったのかだの追試は大丈夫かなど、必ず余計な小言が付いてくるはずなのに、この素直さはどーゆーことよ。これは相当イイコトあったな、このヤロウ。
 よし、んじゃ今のうちに。
「あと、こないだおまえ来なかったから、もう一回カラオケ大会やることになったからな。今度こそ絶対来いよ。 あーそれから、物理と古文の宿題写させてくんねぇ?」
「はいはい、わかったよ」
 最後はさすがに何か言われるかと思ってちょっとトーンダウンしたけど、まさかの一発OK? 超ラッキー!
「おっしゃーっ、忘れんなよ。 じゃーまたな〜」


 ホクホク顔で電話を切った所に、ちょうど蕾が窓から入ってきた。
「お、なんだよ、朝帰りか?」
「っ!……違うっ、ちょっと散歩してきただけだっ」
 ちょっとした軽い挨拶のつもりだったのに、蕾の顕著な反応に透の方が驚いてしまい、それ以上、突っ込めなくなってしまった。
 さらに、そのまま足早にバスルームへ直行しようとした蕾が透の前を通った時、彼の首筋あたりについた赤いアザが目に飛び込んできた。
(うわっ…あれってもしかして…? ええええ! って、マジかよ〜っ)

「……………」
 なにかあっただろうとは思ったが、まさかズバリそっち系だとは思わなかった。
 しかし、東雲の嬉しそうな様子やら蕾の今の態度から察するに、やはりそういうコトなのだろうか。
 蕾がシャワーから出てきたらどうしよう。こーゆーことは第三者がとやかく言うようなことじゃないし、そっとしておいた方がいいのはわかっているが、今、蕾と顔を合わせたら、そ知らぬフリをする自信がない。

 ぐるぐると悩んでいた透だったが、玄関が開く音で我に返った。

「あれ? 薫さん、忘れ物?」
「いえ、ちょうどこの近くまで来たら、蕾さまの花気を感じたもので。 お戻りになられたのですね」
 シャワーの音を聞きながら、ホッとしたように微笑む。
「ああ、なんか東雲んトコに行ってたみたい。 まったく人騒がせなヤツだよな〜」
「そうですか、東皇使さまの所に…どうりで」
「どうりで?」
「ええ、蕾さまの花気が随分と華やいでいたものですから。 きっと何か良いことがあったのでしょう。 蕾さまも口ではいろいろと言っていますが、東皇使さまとお会いしたあとは、いつもより花気が満ちていることが多いのですよ」
「そ、そーなんスか。 あいつ素直じゃないから…ハハハ」
 薫に他意はないとわかってはいるのだが、『良いこと』という言葉に反応してついつい笑いがひきつってしまう。
 
「では、私はお得意さまの所へ行く途中ですので、これで」
「えぇっ、もう? あああ、じゃあオレもそこまでちょっと買い物に……。 蕾〜、ちょっと出かけっから」

 透はバスルームに大声をかけて、薫を追い掛けるように部屋を出た。
 やはりまだ心の準備ができていない。こっちが変に意識することもないのだろうが、とりあえず、もう少し冷静になる必要がある。

 夏の日ざしをたっぷり浴びながら公園のベンチでアイスでも喰おう。
 それからゲーセンでも行って、ちょっと落ち着けば大丈夫。

 なんたってオレは蕾のマブダチなんだから、蕾が幸せになるんなら心から応援してやるさ。まあ、ついでに東雲もちょこっとぐらいは応援してやるかな。

 まったく天界の皇子サマだかなんだか知らねーけど、ホント手間のかかるヤツらだぜ。




  END


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透と東雲の普段のやりとりが好きです。 透は、二人にちょっかい出しながらその進展ぶりをけっこう楽しんでるんじゃないかな〜と。 春指南3の例を出すまでもなく、東雲も蕾も、透の前だとけっこう素になっちゃうから、お互いに知られないようにしてることも透にはバレバレだったりするんですよね。つくづく羨ましいポジションです。



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