蕾と二人で、とある怪異の調査に行った。
怪異の原因を突き止めるのに、ひょとして夜明けくらいまでかかるかもしれないと思っていたので、いつもの如く英子にはあらかじめ透の所に泊まると言っておいた。だが、夜半過ぎに現れた怪魔はどうということのないザコ怪魔で、蕾の活躍によりあっという間に片が付いてしまった。
とはいってもさすがに帰るには遅すぎる時間帯だし、せっかくだからそのまま蕾と一緒に透のマンションに向かうことにした。
「なにが“せっかくだから”なんだ」
蕾は東雲がマンションに来ることにブチブチと文句を垂れているが、それもそのはず。
東雲にとっては非常にラッキーなことに、薫は天界からの呼び出しがあってしばらく不在、透も今日はお気に入りのライブがあるから帰らないかもしれないと言っていたそうだ。
要するに、今夜は蕾と東雲二人きりの公算が高いわけで、蕾はそれが気に入らないらしい。
長い付き合いであるので天界にいたときだって下界でだって何度も一緒に寝泊まりしたこともあるし、特に不埒な真似をした覚えもないのだから、今更そこまで嫌がることはないだろうにと、いつものこととはいえ東雲としては納得がいかない。
もっとも蕾も本気で嫌がっているわけではなく、意識するとなんとなく気恥ずかしいというかとりあえず邪険にしてしまうだけなのだろうが。
そして東雲もそこはよく分かっているので、ついつい揶揄うような言い方をしてしまう。
「そんなに照れなくても。 別に二人きりの夜が初めてというわけでもあるまいし」
「その妙な言い方をヤめんか!」
そんなやりとりをしながら、渋る蕾と上機嫌の東雲が二人で帰路につこうとしたその時――――。
「あ〜れ〜助けて、花将さまーっ!!」
フレーズはか弱いが、その思念はかよわき花精からはほど遠い、力強くドスの利いたものだった。
二人ともすぐに、その思念の主に思い当たる。そう、地上最大の花といわれる彼女のものだろう。加えてその付近から漂う気配は怪魔といってもかなりの下っ端レベルだ。
ひとたび花精の呼ぶ声あらば、いついかなる場合でも駆けつけ天地の花を守る御大花将ではあるが、さすがに若干のためらいを見せる。おそらく今から助けに向かっても、到着した時には既に決着がついているだろう。無論、花精の圧勝という形で。
逡巡しながら東雲の方をチラリと見てきた蕾は珍しくいつもの強気さが陰を潜め、「行かなければダメだろうか」と東雲を窺うような目つきをしている。
そんないつにない蕾の態度を内心で可愛いなぁと思いながら、東雲は求められている正論を口にして蕾の背中を押してやった。
「…うん…まぁでも一応行かないとね……」

結局、まったく予想通りの結果に終わったわけだが、蕾に追い打ちをかけたのはラフレシアの花精の「役立たず」の言葉であった。
天界最強の御大花将が、まさか守るべき花精から「役立たず」などと言われようとは。
蕾は傍目にもはっきりわかるほど落ち込んでいて、東雲が宥めるように肩を抱いても無反応だ(いつもならすぐに振り払われてしまうのに)。
東雲の前では、慰められたり心配されるのがイヤなのだろう、普段は殊更に強気を装うことの多い蕾だが、最近はこんな風に東雲の前でも素の表情や感情をさらけ出してくれるようになってきたように思う。
そんな些細な変化がけっこう嬉しい。
しかし、あまりに反応がないと東雲としても張り合いがないというか、要するにからかい甲斐がなくてつまらない。やはり蕾には、意地っ張りの暴れん坊でいてもらわなくては。
そんな、贅沢というか微妙に歪んだ愛情を抱きながら、東雲はトボトボと肩を落として歩く蕾の後を追っていった。
「蕾…元気お出し、別に君が役立たずだったわけじゃないと思うよ。 それにしてもよりにもよってラフレシアを狙う怪魔がいるとはねぇ。 まあ、結果的に花精には何事もなかったんだし、君も余計な仕事をせずに早く帰れるんだし、よかったじゃないか」
わざとらしい笑顔でにこやかに言いながら、うなだれている蕾の頭をポンポンと軽く叩いてやる。
「……おまえは何でそんなに機嫌が良いんだ」
不機嫌そうに振り返った蕾は、下から東雲を睨め上げた。
「いやいや、気が進まないのにワザワザ行った揚げ句に『役立たず』なんて言われて珍しくヘコんでいる君が気の毒で気の毒で。 君が『役立たず』なんかじゃないのは私が一番良く分かっているから、『役立たず』と言われたことくらいで気にすることはないよ。 そう思うからこそ、『役立たず』と言われた君を心を込めて慰めてあげてるんじゃないか」
さすがの蕾もここまであからさまに言われて黙っていられるワケがない。
「ウルサイっ白々しいわッ、誰が役立たずだ! もういい、さっさと帰るぞッ」
そう言うなり、蕾は夜空へ飛び上がった。
もちろん、東雲も心得たとばかりに後を追う。
「帰る」ではなく「帰るぞ」という蕾の無意識の一言が、東雲と一緒に帰ることを蕾がちゃんと受け入れてくれていることの表れだ。
まだまだ夜は長いことだし、今夜は二人でたわいもない話をしながら、久しぶりに夜更かしでもしてみようか。
子供の頃のように、話し疲れたらそのまま雑魚寝してしまうのもいいかもしれない。
そんな東雲の思考が通じたのか、はたまた我知らず顔に出ていたのか、飛びながらくるりと振り向いた蕾が(いまだ額に怒りマークが張り付いている気がするが)不意に言った。
「いいか、マンションに来るというからにはオレが寝るまでは寝かさんからな。 覚悟しとけよ」
おやおや、一体どういうつもりなのか、とんだ殺し文句だ。
でも、蕾がどんなつもりだとしても、東雲とて簡単には蕾を寝かすつもりはない。
「フフ……いいのかい、そんなこと言って」

「…っうわ、オイ東雲っ そこはヤメッ…」
「じゃあココをこうしたらどうかね」
「ウッ、あ…ぁダメだ、ズルイぞ! コラっ」
「どうする? 降参するかい?」
「だ…っ誰が、クソッ、あ…ぁ、アアーッ」
「はい、また君の負け。 これで私の17勝2敗だけどまだやるつもり?」
「当たり前だ! 今度はこのソフトで勝負だ」
期待に胸を膨らませてマンションまでやってきた東雲を待っていたのは、蕾とのゲーム対決。
テレビゲームなどやったことのない東雲は始めこそ蕾と互角だったが、すぐにコツを掴むと、蕾をこてんぱんに負かしてしまった。無論、負けず嫌いの蕾がそれで終わらせてくれるワケがなく、結局、延々とゲームで対戦する羽目になったのだった。
いい加減、手を抜いてやればいいようなものだが、負けて悔しがる蕾を見るのが楽しくて、次こそは負けてやろうと思いつつもついつい本気を出してしまうのが東雲だ。
やがて、勝負が東雲の20勝までいった所で、スイッチが切れたかのように蕾がダウンした。
あっという間に寝息を立て始めた蕾を見て、とりあえず寝室から毛布をとってきて掛けてやると、東雲もようやくお役ご免とばかりに、充血する目をこすりながら、蕾の傍らに横になる。
望み通りの雑魚寝ではあるが、当初の目論みからは随分と遠ざかってしまった気がしなくもない。
でも……。
たまには、こんな夜を過ごすのも下界ならではの贅沢といえるのかもしれない。
すぐ目の前にある蕾の寝顔を眺めながら小さな笑みを零し、東雲もやがて吸い込まれるように眠りに落ちていった。
☆ end ☆
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展開がバレバレなうえにオチが中途半端ですみません……
巨花傑は短いお話ですが、しのつぼのあうんの呼吸というか仲良し(?)っぷりが微笑ましくて好きですw